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学者という生き方

末は博士か大臣かと言ったのも今は昔、すっかりどちらも魅力のない職業になりました。

 

 

大臣はともかく、今回は学者という職業選択をすることについてです。

 

 

まず第一に押さえておきたいのが、研究室と言えば一つの企業みたいなものです。大企業から中小企業もありますが、共通して言えることは人付き合いは避けられないということです。「うちの子、営業とか人付き合い苦手そうだから研究者とかの方がいいわね」というのは間違いです。

 

 

 

さらに近年は、(国立大学法人化以後)大学という組織そのものが「どれだけお金を取ってこれるか」に向けて邁進するようになりました。研究員たるもの、国から研究費を取ってこれる研究をする事が求められます。もうこうなってくると営業マンですね。「地層の研究をしたい」ではお金をもらえません。「レアアースを採掘し日本の資源不足を補う」じゃないとお金なんてもらえないわけです。

 

 

 

昔のように「好きな研究だけを成果が出るまでコツコツやって花開く」という演歌の花道みたいな世界ではないので、研究をして生きていきたい人はいかにして自らの身を立てるのかを考える必要があります。

 

 

 

 

さて、そんな暗い話をしておいた上でなんですが、研究者になるためにはどうしたらいいか。

 

 

 

まず、大学に4年通った後、大学院に進む必要があります。

 

 

大学院は、以下のような課程になります。いくつかパターンがありますが、大きく分けて「修士課程」「博士課程」となります。

 

 

 

(図は下から上へ進みます)

 

 

それぞれの過程の最後には、「修士論文」「博士論文」提出があります。提出後、先生方に認められれば「学位」を手にすることができます。つまり、「○○学修士」「○○学博士」を名乗ることができる、というわけです。

 

 

ちなみに、論文が通らないために結局修士・博士の学位を手にできない人も結構います。ここでだいたい24~28歳とかなので、学位が取れないとなると泣けてきますね。

 

 

 

現在、理系の人は半数以上が大学院の修士課程(2年間)に進み、さらにそのうち8割~9割方は博士課程に進まず就職します。上位大学になるともっと多くの人が院に進学するでしょう。つまり早くて24歳での就職です。企業も専門家として雇用する際には大学院卒以上を要求します(こうなると、企業の研究員という生き方になる可能性が高いですね)。仮に理系であっても、大学院に行かず4年で卒業したら大抵は文系と同じ扱いです。理系の専門家として働くのではなく文系の人と同じ一般サラリーマンとして人生をスタートさせます。

 

 

さて、話を元に戻して研究者として生きていくためには、修士課程→博士課程に進む必要があります。

 

 

 

博士課程にまで進むと、卒業して25~26歳です。まずほとんど普通の企業での就職はありません。専門家としての就職もかなり狭き門です。したがって、博士課程に進んだ人は、卒業後に大学の先生または研究者としての就職を望みます。ここがもうめちゃくちゃ狭き門です。通常は博士課程を終えたからと言ってすぐ大学の先生にはなれず、「ポスドク(ポストドクター:博士課程を終えたもの」と呼ばれる不安定な身分になります。これは職業名ではなく、「就職浪人生」くらいの意味合いです。

 

 

 

で、この期間に有期雇用で他の大学のちょっとした授業の担当講師をしたり、運が良くそして優秀ならば国や大学からのお金で研究をさせてもらったり(もちろん申請や実績が必要です)して食いつなぎます。そして優秀ならば(研究成果が秀でている・お金を取ってこれる・世間的に目立つ・学生を集められる)正式雇用されます。ここでようやく30代、下手すると30代後半ですね・・・。

 

 

 

一般的には

教授-准教授-助教

というピラミッドのなかで身分が安定して無期雇用なのは教授、せいぜい准教授くらいまでです。よくある「特任○○」は有期契約です。「特任助教」とかよく聞きますね。こうなると、期限が来たら切られる可能性も十分ありますから、下手したら無職です。

 

 

 

そういった数々の関門をくぐり抜けてようやく研究者として生きていけるわけです。なかなか大変ですね・・・。

 

 

※他にももっと細かい制度がありますので実際は多種多様ですが、おおよそ上記のようなストーリーで考えていけば良いと思います。実際は研究者として生活している人にはかなりの数「企業の研究職」の方もいらっしゃり、そちらの方が待遇がいい場合も結構聞きます。

 

 

 

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私見ですが。

 

 

博士、ポスドクらへの冷遇を国や政権のせいにする怨嗟が(実際の研究者から)きかれたりしますが、これは現状なんともならないでしょう。

 

 

かつて大学入試で大量の学生をふるいに掛けていたものが、今は誰でも大学に行けるようになりました。その代わり、「大学を出てもいい企業に就職できない」という就職難民を生み出します。さらに同時に「大学院重点化」が打ち出され、大学院を拡充する政策がとられました。が、大学院を出た後のポストは当然用意されませんでした。大学教員だけ増やしても仕方ないですですからね。そこら辺を確認しないでうっかり情熱だけで(または就職から逃げて)大学院に行ったひとが大量にあまり続けているのが現状です。縮小再生産に入った日本社会では、これからの人口減少を見越して進学しないと、なんとなく見栄えだけで大学院を出て博士になってもとてもじゃないですが生活なんてできない未来が待っていたりします。これは大学院だけではない日本全体の状況ですから、この先どうにもならないかもしれません。