科学者を目指すみんなへ
2022年09月23日
中3理科ではDNAや遺伝について扱うのですが、当然のように毎年「クローン」についての話が生徒のみなさんから出てきます。ので、最近見かけた記事を。
実験室で培養した人間の「ミニ脳」に目が生えてきたとの報告、光にも反応 – GIGAZINE
脳が信号を発したことまで確認されるとなると、、、もはやこれは「ヒト」の原型ではなかろうか。そもそもこれをクローンと呼んでいいのかさえ分からないのですが。
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ところで、ヒトクローンについてはさまざまな方がそれぞれの立場・見地からいろいろな事を述べられていますが、1つ紹介しておきます。ヒトクローンについてに限らず、科学者になりたい子には是非是非読んでおいていただきたい文章です。
『STOP!ヒトクローン』クローン人間作成についてのコメント/石野研究室ホームページ (tmd.ac.jp)
(※上記ページについて、重要な補足を下部に記しますので必ずご確認ください。)
このページでは、「ヒトクローン」についての、まさに先端科学者からの大変重要な見解が述べられています。
もし「ヒトクローンが誕生した」という記事が仮に(過去に・未来に)あったとして、冒頭に
一般の方々はもちろん、報道に関わる人達にも御理解いただきたい点は、この手の質問は科学者がコメントする対象ではないと言うことです。すなわち、事実の確認のしようがない事象に対して、私たち科学者はコメントすることが出来ないと言うことです。
と述べられています。どういうことでしょうか。
要約すると、
・クローン技術そのものが動物実験の段階であり、それすらまだ成功したかどうかの判定が難しい。
・ヒトに対してそうした(HP作成当時)不安定な技術を用いて「ヒトっぽいもの」が仮に出来たとして、それが成功か失敗かを判定するには当然ヒトについての多くの実験・検証結果が必要である。(これはクローン技術に関わらず科学とはそう言うものである)
・しかし、ヒトに対して多数の研究実績を積み重ねることはクローン技術においては倫理的に考えられない。(研究実績を積み重ねるには、マウス実験と同様に多数の失敗や奇形の発生が想定される)
・したがって、ヒトクローンが成功か失敗かの判定は当然にできない。
・結論として、安易に「ヒトクローンが誕生した」という報道が(仮に)あったとしても、科学者としての見地からそれが正しいとも正しくないとも言える状況・立場にない。
ということになろうかとおもいます。
ここから補足です。
実はこの石野先生の研究室のホームページの記事について、いつの時点での見解かを直接問い合わせさせていただきました。(大変失礼ながら石野史敏教授にいきなり直接メールさせていただきました・・・)
なんと、すぐにお返事をいただけ、本論考は2005年12月のものであることを教えていただきました。
2005年当時といえば、「ノーベル賞級発見」と騒がれ、のちにねつ造が発覚した「韓国クローンES細胞捏造事件」KOREAN CLONED STEM CELL INCIDENT OF 2005 (umin.ac.jp)があった年です。
その後石野先生の研究室により同年12月に「最近の研究結果」石野研究室ホームページ (tmd.ac.jp)および上記「STOP!ヒトクローン」ページがアップされたそうです。
また、最新の知見に基づいて石野先生より直接の詳しい状況をメールでお教えいただけました。以下は先生からのメールの抜粋です。許可を得てアップさせていただきます。
(※印は僕による補足です)
(※上記ホームページの内容については、2005年当時の知見として)マウスクローンでさまざまな異常が観察されており、成功率も2~3%程度の技術で、その原因もわからないままにヒトへの応用は科学的に考えて問題が多いということをメッセージとして伝えたものです。実際、クローン技術では1匹、1匹に異なる異常が起きており、とても皆が思うような同一の性質を持つマウスが生まれているというには、ほと遠い状況でした。
(略)
ちなみに、現時点では、共同実験者の小倉先生、若山先生の努力でマウスクローンの成功率は20~30 %にあがり、実験技術としては確立したものになってきておりますし、当初見られた異常の多くは改善されていますので、遺伝子発現(※見た目や機能などのレベル)を見ただけではクローンマウスか正常の受精を経て生まれてきたものかを見分けることが難しいところまで来ています。ですから、当初の問題点の多くは解決できてきております。
しかし、逆に、クローンを作る動物種ごとで状況が大きく違うこともわかってきています。マウスで起きた問題は、マウスに固有の問題も多く、ヒトには当てはまらないということです。ということは、ヒトクローンを十分解析しないことには(これは倫理的に不可能です)、ヒトにおけるこの技術の安全性はわからないということです。
実験動物を用いて薬剤(※一般の医薬品等)の安全性試験などが行われていますが、最終的に「ヒトのことはヒトでなければわからない」というのは、一番、覚えておいていただきたい点です。最終的にヒトを使った臨床テストをクリアーしなければ薬として認められません。
ということで、科学的な理由からヒトクローンは作るべきではないという見解については、今も変える必要はないと考えています。
石野史敏先生により、僕のような素人でもとてもわかり易く現状や考え方、あるべき姿をお教えいただけました。特に最後の1段落は、今後科学に携わるみなさんも必ず知っておかねばならないことであろうと思います。
本記事については石野先生より許可をいただきまして公開させていただきます。一切は先生のご厚意によるものです。当方による突然の不躾な質問にお時間・お手間を頂戴しましたこと、この場を借りて御礼申し上げます。
ちなみに石野先生はすでにご勇退、研究室も解散され、研究は上記先生方に引き継がれさらに発展されているそうです。
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個人的には人権がどこから発生するのかがさらに気になっていたりします。
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↑を読んでるんだけど、「人権」という概念がどこから来てどう解釈されているのか。歴史的に・政治制度的に・社会的に、多面的に分析されていて面白いんだけど何しろ難しいのだ。そして高いのだ。