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(余談)羽田空港第3ターミナル商業ビルがあかんやろって話

マーケとか都市開発とかに興味がない人には全く無関係です。長いです。好きな人だけ。

 

羽田空港第3ターミナルに行ったとき、少し時間があったので、直結している羽田エアポートガーデンまで歩いてみました。

 

羽田エアポートガーデンは住友不動産が開発した巨大複合施設で、ホテル、温泉、イベントホール、バスターミナル、商業施設が一体になっている。文字だけ見れば立地は最強である。羽田空港第3ターミナル直結。国際線。インバウンド。約1700室のホテル。天然温泉。ショッピングモール。

 

 

ところが、実際に歩くと妙な違和感。

 

第3ターミナルにはもちろん人が多い。到着客も出発客もいる。京急や東京モノレールへ向かう人も多い。ところが羽田エアポートガーデン方向へ進んだところで、急に人が薄くなる。

第3ターミナル
├→京急・モノレール・バス・タクシーへ向かう大きな人流
├→出発客はチェックイン・保安検査へ
└→連絡通路を進んだ先に羽田エアポートガーデン

アクセスが悪いという意味ではありません。

公式には羽田空港第3ターミナル駅から徒歩1分で、ターミナルとも連絡通路で直結しています。公式アクセス案内を見る限り、距離は近い。

 

 

問題は、人が自然に流れる主動線の中に商業施設があるのか、主動線から枝分かれした先に商業施設があるのか、ということです。飛行機を降りてから、駅へ・・・の同線を通り過ぎて、その先に住友の商業エリアがある。(空港そのものにもお土産やさんとかいっぱいあるんですけどね・・・)

 

空港は利用者数が多い。しかし、到着客は鉄道、バス、タクシーへ向かう。出発客はチェックイン、保安検査、出国へ向かう。空港利用者が年間何千万人いても、その人たちが商業施設の前を通らなければ商売にはならない。

 

中まで入ってみると、その違和感はさらに強くなりました。

 

巨大空港直結の商業施設なのに、思ったほど人がいないのです。正確には、それなりに人が立ち寄っている感はあるけど、実際に買い物をしている人がほとんどいない。変わった食べ物(練りアメ的な?)を作っているお店の前で見ているとか、そう言う人はいるけど、実際買っている人はいない。

 

羽田空港という一等地の看板と、実際の館内人流に妙なチグハグ感がある。

 

調べたら、入札の時点でかなり面白いことになっていました。

 

この土地は国有地で、国土交通省東京航空局が2015年末に事業者を公募し、2016年に落札者を決めている。貸付期間は2018年4月から2068年3月まで、約50年間。国有財産定期借地権設定契約書の締結資料に契約期間が明記されています。

応募したのは3グループ。

 

詳しいメンバー、採点、審査講評は国土交通省の民間事業者選定結果に全部載っています。

グループ 年間提案貸付料 価格点 内容点 総合点
住友不動産・東京国際空港プロジェクトチーム 27億円 50.000 22.042 72.042
日本空港ビル・京急・三菱地所・大成グループ 10億7585万円 19.923 43.292 63.215
GLOBAL WINGS羽田チーム 7億1007万7500円 13.150 29.667 42.816

数字を見れば分かりますが、住友だけ土地賃料が突出しています。なんと京急側の約2.5倍。

 

しかも2位のグループは、日本空港ビルデング、京急、三菱地所、大成建設だけではなく、三菱地所設計、京急EXイン、ロイヤルパークホテルズ、日本ホテル、三越伊勢丹、JR東日本、JTB、ヤマト運輸、セコム、電通、ヒューリック、東京モノレール、東京空港交通、京浜急行バスまで参加した「オールスターチーム」。

空港、人流、鉄道、ホテル、小売、バス、物流、不動産を読むプロをほぼ全部集めたような布陣です。

このメンバーが年間10億7585万円と値付けした土地に、住友は27億円を提示した。客観的に言って「どうしたらそうなる?」って金額差。もちろん素人には妥当かどうか分かりませんが、住友だけ異常値なのは分かります。

 

対象地の合計面積は4万3035平方メートル、約1万3018坪。(東京航空局の仕様書に記載された面積)

 

住友の年間27億円をこの面積で単純に割ると(いわゆる坪単価)、月額では1坪あたり約1万7300円。京急側の10億7585万円なら約6900円、ANA側の約7億1008万円なら約4500円となります。

 

羽田第3ターミナル隣接で約1万3000坪を約50年間押さえる土地と考えると、絶対単価だけ見れば意外に安い気がします。一方で入札参加者同士を比べれば、住友は京急側の約2.5倍を提示。

 

でも、羽田という土地そのものの希少価値と、各社が事業として採算を取れると見た地代は別の話。

 

(なお、年間賃料27億円を単純に50年掛ければ1350億円、京急側は約538億円となるが、これは規模感を示すだけの計算です。実際の貸付料は貸付開始前に改定され、その後も3年ごとに改定される仕組みなので、入札時の年間賃料が50年間固定されるわけではありません。改定条件は募集要項に定められている。)

 

めちゃめちゃ興味深いのは、有識者評価では住友がほぼダブルスコアで負けているという事実です。

主な評価項目 住友 京急側 配点
全体整備・運営計画 3.375 9.000 9
景観に配慮した動線計画 1.500 5.750 6
訪日外客対応 1.667 3.833 4
空港内の他地区との連携 1.000 2.875 3
資金調達・事業収支計画 1.250 2.125 3
加点項目合計 17.042 38.292 45

 

有識者委員会の講評(コメント)もかなり辛口。

住友案については、約1700室の大規模ホテルを整備する点は評価しつつも、

・施設・機能は必要最小限

・外観は単調、視覚的な圧迫感の可能性

・車両動線と歩行者動線の交差部分に関する具体的な安全記述の不足

・施設利用者への景観・動線への配慮が十分読み取れない

・運営企業の収支計画も具体的記述が少ない

と指摘、さんざん。(詳細は国交省の審査講評の8ページ以降、おもしろいので是非)

 

一方、京急側は、

・ホテル、複合業務施設、商業施設がバランス良く配置

・空間構成が明確で、車両動線、歩行者動線とも利用者に配慮されている

などと評価。誉め誉め評価です。

 

事業計画の中身だけなら、43.292対22.042。住友、完敗。

 

それでも、入札としては住友が勝った。なぜか。それは最終結果を決めるための算定式にある。

要は、提案の中身の点数はボロ負けだけど、入札金額がでかければ勝ちという仕組みなわけです。

価格点の計算式

価格評価点=50点×自社の提案貸付料÷最も高い提案貸付料

最高額を出した住友は50点満点確定。

10億7585万円を提示した京急側は、住友の27億円を基準に相対評価されるので19.923点まで落ちます。一番高額なところを満点として、それ以下は順次割引状態になるって感じです。

 

内容では京急側が約21点勝っていたのに、価格で住友が約30点上回り、そのまま逆転という図式です。

 

調べて見ると、この式自体は公有地活用の入札で珍しいものではありません。しかし、50年間使われる空港隣接の巨大開発で、価格50点、内容50点という配点にすると、一社だけ突出した高値を提示した場合、都市計画上の質を価格が飲み込んでしまうのも事実です。中身がアレでも、国に入る金額がでかいからまぁいいか、となっちゃう計算式なんです。

 

この案件は、オークション理論でいう「勝者の呪い」を考える教材としてもかなり分かりやすいものです。

 

で、話を本題に戻して、第三ターミナル商業ビルがあかんやろって話。

 

なんと開業たった3年で、商業エリア14店舗を入れ替えです。

 

羽田エアポートガーデンはコロナ禍による延期を経て、2023年1月に全面開業しました。つい3年前です。開業時の商業エリアは74店舗。住友不動産の全面開業資料を見ると、商業コンセプトはかなり明確です。

 

ところが2026年2月、住友不動産商業マネジメントは商業エリア全14店舗の入れ替えを含むリニューアルを発表します。

 

開業時の外国人観光客向けの日本土産・伝統文化中心の構成から、空港利用者が実際に使いやすい飲食、休憩、24時間機能、日常性を強める方向へ軸足を移した。「JAPA—-N」な感じから、「空港に来たビジネスマンへ・・・」みたいな。ちょっと言い過ぎかもしれんけど。

開業時の代表的な店舗・業態 2026年以降の新規店舗・強化例
くろちく、白竹堂、福井洋傘、HARIO Satellite、日本茶きみくらなど、日本文化・伝統工芸・土産色の強い物販 HERZ、マザーハウス、岩座、YouLA Selectionなど、実用品と日本らしさを両立した物販
山古志本舗、和菓子、食物販、土産品中心 SOUVENIR SHOP by LAWSONを24時間営業で導入
ご当地グルメ、和食、観光客向け食体験 麺屋優光、鉄板焼き神火、クリスプサラダワークス、トーキョーアジフライなど、日常利用もしやすい専門飲食を追加
通常営業時間中心の商業施設 24時間営業のエアポートカフェラウンジNODOKA、深夜帯まで使える飲食、営業時間延長

新規店舗第2弾はこちら。営業時間延長と24時間機能強化はこちら。現在の店舗構成は公式店舗一覧で確認できる。

 

では、こんなありさまで、そもそも住友はなぜ27億円まで突っ込んだのか。

 

ここからは資料に書かれた事実ではなく、事業構造からの推測。

 

1.商業単体ではなく、ホテルを核にした複合採算で見ていた

住友案は入札時から約1700室のホテルを中心とする計画だった。現在も羽田エアポートガーデンは約1700室のホテル、温泉、イベントホール、会議室、バスターミナル、商業施設を一体運営している。

2.2016年当時は、インバウンド成長をかなり強く見込めた

入札は2016年。東京五輪前で、訪日客の増加、羽田の国際線強化が大きな成長テーマだった。そう外してはいないが、コロナ禍は予想外。イタタ。

3.50年間、羽田第3ターミナル隣接地を押さえる戦略価値

短期の商業売上ではなく、ホテル、イベント、温泉、交通結節、将来の空港機能拡張まで含めた戦略価値を住友が高く見積もった可能性。「ダメならどんどんチェンジしていくぜ!」みたいな。

4.そして、多少はメンツもあったのではないか

これは完全に推測。羽田空港第3ターミナル直結、国有地、50年、巨大ホテル、日本最大級のエアポートホテル、国家的な玄関口の再開発。大手デベロッパーにとって非常に象徴性の高い案件。「社運を賭ける(勢いで)羽田に住友を!!」的な?

 

というわけで、大半はゲスの勘ぐりなんですけど。

 

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そういえば、(持ってる株数的に)大好きで(含み損という意味で)憎き三井不動産は、そもそも入札に出ていませんでした。

 

というわけで、ここで三大デベロッパーを見ると、もう一つ面白いことに気づきます。

 

三菱地所は、日本空港ビル、京急、大成建設を中心とした巨大連合で本気の提案を出した。住友不動産はホテルを核にした案で27億円を提示して落札した。

ところが三井不動産はそもそも参加していない。

 

2016年2月5日の参加資格確認申請の段階で、申請したのは最終的に提案した3グループのみ。

つまり三井は途中で落選したのではなく、正式入札の入口から入っていない。参加グループは東京航空局の参加資格確認結果で確認できる。

 

理由を三井自身が公表した資料は見つからないので、ここから先は推測だけど。

 

公募条件を見ると、この案件はそもそも巨大ショッピングセンター開発ではありません。

国が必須としたのは宿泊施設と複合業務施設で、商業施設は国際線ターミナルを補完する機能として追加できる位置付けだった。

 

ここは、ららぽーとや三井アウトレットパークを強力な集客装置として開発してきた三井の得意な形とは少し違う。といっても、決して空港案件が苦手なわけじゃない。

三井はこの公募前年の2015年、クアラルンプール国際空港敷地内に三井アウトレットパークを開業しています。約130店舗、2000台超の駐車場、空港から無料シャトルバスを用意し、空港客だけでなく周辺商圏からも客を呼び込む、目的地型の商業施設です。かなりの大規模プロジェクトです。三井不動産の開業資料を見ると、羽田第2ゾーンとはそもそも発想がかなり違うんですね。

 

一方、羽田の公募では、7万1000平方メートル以上のホテルを含む複合開発について、設計、施工、監理、不動産賃貸、ホテル運営などの実績を持つ企業をグループ内に揃える必要があった。

多分、三井にそれができなかったわけではない。三井ガーデンホテルを持ち、柏の葉でもホテル、住宅、商業、オフィス、カンファレンスを組み合わせた複合開発を既に行っていた。だから、ひょっとしたら「条件さえそろえば是非!」くらいに思っていたかもしれない。

そろわなかった条件は何か。完全に憶測だけど、「それ以外」を全部他に持ってかれてしまっていた。三井グループだけでは無理かも、って感じ。

空港人流を握る有力企業は他グループを作っていて、京急側には日本空港ビル、京急、JR東日本、東京モノレール、東京空港交通、JTB、三越伊勢丹。もう一方にはANA、東急、鹿島、空港施設、東急ホテルズ、トヨタ。よく見たら、入札に負けた2グループはすごい布陣ですよね。日本を代表する企業がズラリ。

となると、三井が独自に強い連合を組む余地は、意外に小さかった可能性があります。

 

さらに、「結果として」本気で入札した2陣営の地代は10.7億円と7.1億円だった。三井が内部で採算を弾いて同じようなレンジ、あるいはそれ以下と見積もっていたなら、あえて資格申請まで進まなかったとしても不思議ではありません。「こんなもん採算とれるかいな」、と。

 

要するに、三井不動産の不参加は、羽田を評価していなかったというより、ホテル主体、商業は補完機能、50年間の国有地賃借、有力な空港関連企業はすでに他陣営に参加、というこの案件固有の条件が、三井の得意な開発モデルと合わなかった可能性があります。

 

しかも三井は後年、ANAと組んで羽田で物流・研究・オフィス機能を備えたHANEDAインダストリアルパークを開発している。三井不動産の発表を見ると、羽田そのものを避けていたわけではないようです

。

商業をやるなら、ららぽーとか三井アウトレットパークを入れたくなる。そんな三井の企業能力上のクセまで考えると、この案件を見送ったことはかなり興味深いです。なにせ入札に参加すらしていませんからね。

 

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関係資料

※2026年10月時点。入札時の評価と現在の施設運営は時点が異なるため、商業部分の評価と施設全体の採算は分けて記述した。住友不動産は商業施設単体の売上高、坪売上、空室率などを公開していないため、商業部分が赤字であるとの断定はしていない。三井不動産が不参加だった理由も公表資料では確認できないため、その部分は事業構造からの推測として記述している。